1年半かけて準備した。それでも遺言書は間に合わなかった

父の相続の準備には、1年半かかりました。相続人は確定し、資産の内容もほぼ把握し、財産目録もできていました。

それでも、遺言書は間に合いませんでした。草案が7割ほどできたところで、父が亡くなったからです。

準備は7割まで進んでいました。ただ、遺言書に関して言えば、7割は0割とほとんど同じでした。

「まだ5年くらいは先だろう」と思っていた

1年半という期間だけを見ると、ずいぶん時間をかけたように見えます。実際には、ずっと精力的に動いていたわけではありません。

父には通院があり、体調のよい日とそうでない日がありました。銀行や役所を回るのは私の役目でしたが、私にも自分の生活があります。

そして何より、私も父も、どこかで「まだ5年くらいは先の話だろう」と思っていました。

Ichi

この感覚が、一番の問題だったと思っています。締め切りがない作業は、後ろに倒れていきます。本気で取り組めば、あの内容はもっと短い期間で終わったはずです。

何が終わっていて、何が終わっていなかったか

亡くなった時点での進み具合は、こうでした。

  • 相続人が誰かの把握: 終わっていた
  • 資産の内容の把握: ほぼ終わっていた。どこに銀行口座があるか、どんな保険に入っているかは、すべて分かっていた
  • 財産目録: できていた
  • 遺言書の草案: 7割ほど
  • 公証役場での作成: 手つかず

財産目録が残っていたことには、本当に助けられました。父が亡くなった後、口座や保険を一つずつ探し当てる作業をせずに済んだからです。これは間違いなく価値がありました。

Ichi

ただ、遺言書は違いました。作成されていない遺言書に効力はありません。7割の草案は、父の意思を示す書類としては使えないということです。

準備の中でも、遺言書だけは性質が違いました。

父が公正証書遺言を選んだ理由

私たちが作ろうとしていたのは、公正証書遺言でした。

資産が多かったからではありません。理由は別にあります。母が亡くなったときに、身内で少し揉めたことがあったからです。

その経験があったので、父には、自分の財産は子だけに渡したい、という明確な意思がありました。それをはっきり形にするために、公正証書という方法を選んだわけです。

遺言書というと、大きな資産を持った人のものだというイメージがあるかもしれません。私もそう思っていました。

ですが、実際に父を見ていて考えが変わりました。普通の家庭であっても、後のトラブルを防ぐという意味で、あったほうがよいものだと今は思っています。金額の問題ではなく、意思を残せるかどうかの問題でした。

公証役場へは「出向くもの」だと思っていた

私たちが考えていた段取りは、こうでした。まず草案を仕上げる。そのうえで、父の体調のよい日に合わせて、公証役場へ出向く。

公正証書遺言は、公証人と証人2名の前で作成します。だから公証役場まで行くものだと、私は何の疑いもなく思っていました。

出向くものだと思い込んでいたぶん、私たちの段取りは実際より重くなっていました。草案ができていて、父の体調が整っていて、日程も合う。その三つが揃う日を前提にしていたということです。

揃う日を待つ前提でいると、一つでも欠けたときに、また次の機会を探すことになります。そうやってズルズル先延ばしになってしまいました。

Ichi

いま同じ準備をしている方に伝えたいのは、三つを揃えなくてよいかもしれない、ということです。まず公証役場に電話をして、いまの状況で何ができるかを聞いてみてください。草案ができあがる前でも構わないはずです。

もう一歩、調べてみました

今回この記事を書くにあたって気になったのは、本当に出向くしかなかったのか、でした。そこで深掘りしてみました。日本公証人連合会の案内によると、遺言者が高齢で体力が弱り、あるいは病気などのために公証役場に出向くことが困難な場合には、公証人が自宅、老人ホーム、介護施設、病院などに出張して公正証書遺言を作成することが行われているそうです。出張の場合は、公証人の日当と交通費が別途かかります。

財産目録を作る作業は、地味で時間がかかる

財産目録は、相続を専門にしている税理士に依頼して進めました。知り合いからの紹介です。

実際の作業は、税理士から「これとこれを揃えてください」と指示を受け、私がその通りに集めていく、という進め方でした。父は歩けない状態ではなかったので、本人でなければならない場面には同行してもらっていました。

派手な作業は何もありません。銀行へ行き、役所へ行き、書類を出してもらい、また次へ行く。その繰り返しです。

専門家に依頼していても、集めるのは家族の仕事でした。ここに時間がかかるということは、先に知っておいてよかったと思います。

それでも漏れる。使っていないクレジットカード

あれだけ把握したつもりでも、漏れはありました。

父が亡くなってしばらく経ってから、使っていないクレジットカードの年会費の請求が届いて驚きました。おそらく、父自身ももう忘れていたのだと思います。

口座や保険のような大きなものは把握できても、こうした細かい契約は、本人の記憶からも抜け落ちます。

いま親と確認するなら、財産の話とは別に、支払いが続いている契約の棚卸しを勧めます。通帳やクレジットカードの明細を1年分見て、定期的に引き落とされているものを書き出すだけでも、かなり見つかるはずです。

遺言書がないまま、話し合いになった

遺言書がなかったので、相続人同士の話し合いで分け方を決めることになりました。税理士に立ち会ってもらい、念のため遺産分割協議書も作成しました。

喧嘩のように揉めたわけではありません。相続人が私と兄弟だけで、人数が少なかったことが大きかったと思います。

ただ、これは運がよかっただけです。

ここに利害の異なる人が加わっていたら、何を根拠に決めればよかったのか。父の意思を示すものが何もない状態で話し合うのは、相当に面倒なことになったはずだと、容易に想像がつきました。

揉めなかったからこそ、遺言書がないことの怖さが分かった、という感覚に近いです。

笑い話にしていたことが、笑い話ではなかった

相続人の確認について、一つ書いておきたいことがあります。

父は生前、冗談めかして「自分にはそういうのはないから安心しろ」と言っていました。愛人や、認知した子どものことです。私も笑い話として聞いていました。

ところが、税理士との雑談の中で、そうした話は実際にあると聞きました。まとまった資産を持つ方が、そちらへ残したいと考えるケースは実在するのだそうです。正直、驚きました。

私の場合は父が元気なうちに、冗談の形であっても本人の口から聞けていました。結果的に、それは確認になっていたのだと思います。真顔で聞き出す必要はありませんが、話題にできる関係のうちに触れておく価値はあります。

もう一歩、調べてみました

この話を聞いて気になったのは、制度の上ではどう扱われるのか、でした。そこで深掘りしてみました。国税庁の案内によると、内縁関係にある人は相続人には含まれません。一方で、婚姻関係にない相手との子であっても、認知されていれば法律上の子となり、相続分は他の子と同じです。この点は平成25年の民法改正で同等になりました。

つまり、家族が把握していない相続人がいる可能性は、制度上あり得るということです。

戸籍については、うちは軽く済んだ

相続人を確定するために戸籍を遡る作業は、我が家では大きな負担になりませんでした。父より上の直系尊属がすでにいなかったため、必要な範囲が限られていたからです。

ただしこれは家族構成によって大きく変わります。相続人が兄弟姉妹に及ぶ場合などは、集める戸籍の量が一気に増えると聞きました。うちは軽く済んだ、という以上のことは言えません。

いま準備を始める方へ、先に確認したいこと

  • 相続人が誰になるかを、先に確定させる。ここが決まらないと、その後がすべて仮の話になる
  • 財産の一覧より先に、どこに口座があるか、どんな保険に入っているか、という「場所」の情報を押さえる
  • 通帳とクレジットカードの明細を1年分見て、支払いが続いている契約を書き出す
  • 遺言書を作ると決めたら、期限を自分たちで設定する。締め切りのない準備は後ろに倒れる
  • 公正証書遺言を検討するなら、草案の完成や体調の回復を待たず、まず公証役場に電話して段取りを聞く。自宅や施設、病院への出張作成が行われている場合もある
  • 自分で書いて法務局に預ける自筆証書遺言書保管制度もある。手数料は1通3,900円で、公正証書とは費用も手続きも異なる
  • 財産の額を聞き出すことを目的にしない。親が何をどうしたいのか、意思のほうを先に確認する

次に確認する

相続税の申告が必要か確かめ、税理士に依頼するかを判断する手順は、相続税の申告と税理士の探し方に整理しています。

親とまだ話せる方は、親と話せるうちに確認するリストから、話せることを一つ選んでみてください。

制度と確認先

遺言書の方式の選び方、書き方、誰にどう残すかは、家族構成や財産の内容によって結論が変わります。具体的な内容については、公証役場や、相続を扱う資格者へご確認ください。

この記事は私の家族の体験をもとにしています。準備に必要な期間、費用、手続きの重さは家庭ごとに大きく異なり、同じ進め方がすべての家庭に当てはまるとは限りません。

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